作物の養分吸収と肥料
作物により施肥量は異なる
作物を栽培するときに肥料を使いますが、その施肥量はどうやって決まるのでしょうか? それは作物がどのくらい養分を吸うのかだけではなく、作物自身の養分を吸収する力も影響します。また今回は詳しくお話ししませんが、作付けする土壌の性質によっても施肥量などは変わります。例えば、アルミニウムの多い火山灰土壌の場合は土壌中のアルミニウムが施肥したリン酸を固定化してしまうため、施肥する量を増やしたり、固定化されやすい水溶性のリン酸ではなくク溶性のリン酸を選ぶようにします。
作物の養分吸収能力の違い
ここでは2つの作物を例に挙げてみましょう。1つ目はダイコン。ダイコンは様々な土壌に対応し、痩せ地でも育つと言われている作物です。開墾地の様なリン酸含有量が低い圃場でも十分に生育します。そしてもう1つはタマネギ。浅根で根が弱く、多肥するイメージの強い作物です。それではこれらの施肥量を見てみましょう。

上記の通り、同程度の収量を目標とした際に必要な施肥量は、タマネギはダイコンの施肥窒素の3倍、リン酸と加里は約2倍も多く施用しなくてはなりません。痩せ地でも育つダイコンは施肥量も少ないので、あまり養分を吸収しないのでしょうか?

比較しやすいように、収量を図1の目標収量に合わせたときのそれぞれの養分吸収量を赤色で表記しました。比べてみると、施肥量が少なく、なおかつ痩せ地でも育つというダイコンの方がタマネギよりも養分吸収量が同等ないし多いことがわかります。特に加里は約2倍も多くなります。この値を図1のそれぞれの施肥量から差し引きしてみると以下の様になります。

タマネギは施肥した養分で十分に足りていますが、ダイコンの窒素、加里は明らかに足りておらず、施肥以外の土壌中の養分を使っていることがわかります。これはダイコンの養分吸収能力が高いことを意味し、決してダイコンの養分吸収量が少ないから痩せ地で育つわけではないのです。
ダイコンとタマネギの根の特徴
作物により根の養分吸収能力が違いますが、その一つの要因は根の形です。ダイコンは「大根」という名前の通り、可食部にあたる根が非常に大きく長いことが特徴です。長い主根とそこから生える側根により縦にも横にも根が広く分布し、広い範囲から養分や水を吸収することができます。一方タマネギは、ひげ根という細かい根をたくさん生やすタイプの作物で、特に下の方に伸ばすことが苦手です。作物は施肥した肥料分以外にも土壌に蓄えられた養分を吸収し生育するため、ダイコンの様に根が広く土壌中に分布した方が養分吸収をよりしやすいことになります。

施肥と土壌分析
タマネギの生産量が多い北海道のオホーツクエリアでは、しばしばタマネギが連作されることがあります。また施肥についても「タマネギはリン酸が好きだから単肥でリン酸をプラス!土壌改良のため施肥とは別に堆肥を入れよう!」など、施肥標準量よりも多く養分が投入されることがあります。下の図は北海道のオホーツクエリアの訓子府町のタマネギ圃場の土壌分析結果(2015年、2022年)です。

実際の施肥の詳細や収量などは不明ですが、リン酸や加里が大きく増加していることが確認できます。特にタマネギが連作される熟畑はリン酸がかなり高くなる傾向が見られます。リン酸が多いことによる過剰症は現れにくいですが、土壌にリン酸が過度にある場合、微量要素の欠乏や病気の発生を助長するなどデメリットがあります。
生育の途中で肥料が切れてしまうと減収に繋がるため多めに施肥をしたくなりますが、作物が吸いきれないほどの養分は土壌に蓄積し、かえって作物の生育を妨げる原因になることがあります。作物ごとに施肥量を確認するだけではなく、土壌分析をしたり、緩効性の肥料や葉面散布をうまく取り入れ、作物や土壌に合った施肥を行いましょう。
