作物も夏バテする?
植物は光合成をしている
植物は動物と違い、食べ物を食べてエネルギーを得ることができません。その代わりに、葉にある葉緑素を使って光合成をします。光合成とは、根から吸った水と空気中の二酸化炭素を使い、光エネルギーにより炭水化物 ※1 を生産することを言います(図1)。光合成で生産した炭水化物より、体を作るためのセルロース(繊維質)や窒素がくっついたタンパク質になります。また、根や実に糖やデンプンという形で貯蔵することもできます。つまり、植物は光合成をすることで根や体、実を大きくするのです。
※1:炭水化物とは糖と繊維の総称

植物も呼吸をしている
私たち人間は米やパンなどの炭水化物を食べ、呼吸することで炭水化物を分解し、生きていくためのエネルギーを獲得します。植物も生き物のため動物同様に呼吸をしています。呼吸によって得られたエネルギーは体を大きくするための細胞分裂や体内の様々な合成・代謝に使われます。
しかし植物は動物と違い、食べ物から炭水化物を得ることはできません。よって、光合成により生産された炭水化物が使われます。光合成により生産された炭水化物は、体を大きくする原料になるのにプラスして、呼吸にも使用されるのです(図2)。基本的には光合成で生産される炭水化物が呼吸で消費される炭水化物よりも多くなるため、植物は体を大きくしていくことができます。

暑くなるとてん菜の糖度が落ちる

気温が高くなると植物の代謝が上がり、呼吸量が増加します。暑すぎると消費する炭水化物が光合成で生産した炭水化物よりも上回ってしまうことがあります。これを工芸作物であるてん菜を例に挙げて考えてみましょう。
てん菜は「甜菜」と書き、舌に甘いという字の通り、北海道特産の砂糖の原料になる作物です。フランスやドイツなどのヨーロッパで多く生産され、「シュガービート」と呼ばれています。日本ではわかりやすいように「砂糖大根」と説明することもありますが、外見は大根と言うよりも大きなカブの様な形をしています。この大きな根の部分に糖分を蓄えています(写真1)。
てん菜は日本では北海道だけで栽培され、比較的冷涼な環境を好みます。栽培される時期は、5月に植え付けをし、7月くらいまでに根を伸ばし、8月から9月にかけ根の肥大、糖の蓄積を行います。そして10~11月に収穫されます(図3)。
根の肥大、糖の蓄積を行う8~9月にたくさん光合成をすれば、てん菜に糖分が溜まり砂糖がたくさん取れることになります。しかし冷涼である北海道においても、近年温暖化の影響で気温が高くなり、呼吸量が増えた結果、てん菜の糖度が下がっている傾向が見られます(図4)。


どんな対策ができるのか?
てん菜の糖度を例に挙げましたが、呼吸量が増えることにより、砂糖の原料であるサトウキビや糖度が高いと付加価値が付く果実や野菜にも同じことが言えます。また、原料用のバレイショのデンプン量も向上しづらくなり、炭水化物は体を大きくすることにも関係しているため作物の収量自体が減収してしまう可能性もあります。
高温になり呼吸量が増えることに対して、呼吸しないようにするという対策は非常に難しく、別の対策が必要となります。例えば①光合成量をアップする、②呼吸量を減らすために必要のない葉を欠いてしまう、葉をむやみに大きくしない、過繁茂にしない、③エネルギー消費を抑えるためにアミノ酸を補給するなどが考えられます。この詳細については、また別の機会にお話しします。
近年、温暖化の影響もあり夏や秋の気温が特に高くなり、残暑も厳しく長い傾向があります。夏は作物が旺盛に生育を行う時期であり、その上高温になるとおのずと呼吸量は増加します。特に夜間は光合成を行わないため、夜温の上昇は純粋に呼吸量だけを増加させてしまい非常に大きな問題となります。
土壌の物理性、化学性の改善や適切な施肥を心がけ、作物に負荷がかかりづらい栽培を行うことはもちろん、暑い時やその後の疲れた作物に応急処置として葉面散布などのケアも効果的です。