ウシに固形塩をあげよう!
なぜウシは塩を舐めるのか?
すべての動物にとって塩分は生命維持に必要なものです。ウシは牧草由来の粗飼料を主食としそのままでは塩分を摂取しにくいため、飼料に塩分を配合したり、「鉱塩」という塩の固まり(固形塩)を与えたりして塩分の欠乏を防いでいます。では、なんの為にウシは塩を舐めているのでしょうか?それは、脱水症状にならないためです。
脱水症状には2種類ある
夏の炎天下や激しい運動をしたときに、私たち人間も脱水症状になることがあります。そしてこの脱水症状には大きく分けて2種類あります。体内の水分が単に足りなくなる脱水は、喉の渇きなどの自覚症状と共に発症します(自ら水分補給をしづらい乳幼児や高齢者に多い)。これはこまめに水を飲むなどして回復、予防が可能です。一方で、一般的に発生しやすいのは、大量の発汗、下痢や嘔吐などにより水分だけではなくミネラルを失った場合の脱水症状です。これは水を補給するだけでは回復しません。動物の体の中の塩分濃度は決まっており、水分をとっても体内のミネラル(塩)濃度が薄いままだと、塩分濃度を上げるために結局水を排出してしまうので、症状は軽減しません。ウシの場合は水を飲まなくなり、その上、普段からふん尿や搾乳により多くの水分やミネラルを排出するため症状は悪化していきます。運動をしたり、体調が悪く下痢や嘔吐をした際に、水ではなく経口補水液やスポーツドリンクが推奨されるのはこのためです。

ウシの脱水症状は特に気を付けなければならない?
諸説ありますが、ウシは平均して80~100ℓ/日程度の水を飲みます(乾乳牛でも40ℓ、高泌乳牛は200ℓ飲む!)。牛乳を多く出したり、暑く汗をかくときはその分多く水を飲みます。一方で、水分のロスは主にふん尿によるもので、ふんで約40kg(9割が水分)、尿で約10kg(ほぼ水分)を排出します。汗もかきますがウシの汗腺は少なく、発汗量も少ないため蒸散量は人間の1/10程度です。乳牛の場合は、一日約20~30ℓの牛乳が搾られます。
出した分の水分をしっかりとれば脱水症状にはなりませんが、塩を舐めないとウシは水を飲まなくなってしまいます。それはウシが食べているエサの影響によります。ウシは主に牧草由来の粗飼料を主食としていますが、この牧草にはたくさんのカリウムが含まれています。体内のカリウムとナトリウムの濃度は体内の水分調整に影響を与えます。例えば人間に多いのは、塩分をたくさん取り体内のナトリウム濃度が上昇、ナトリウムの濃度を薄めるために体に水分を溜める浮腫 んだ状態です。浮腫みの解消にはカリウムが良いとされ、カリウムを摂取すると余分な水分やナトリウムを体外に排出できます。一方、ウシに多いのは、牧草から大量にカリウムを摂取し、体内のナトリウム濃度が上がらず、その濃度を上げるために水分を排出してしまう脱水症状です。ここで塩を舐めることで、体内のナトリウム濃度を維持し、余計な水分の排出を抑えることができるのです。ウシはナトリウムが足りないときは、他のウシ(汗)や床、鉄の柵など舐めて補給しようとするそうです。

固形塩はミネラルの補給も同時に行えます!
固形塩には塩だけではなくミネラルも含まれています。ミネラルには体内に比較的高い含量で存在する多量ミネラルと要求量が少量で通常は体内で低い含量で存在する微量ミネラルがあります。それぞれどのようなミネラルが分類されるのかは、以下の通りです。

どのミネラルもウシが生きていく上で欠かせないものですが、特に現代の乳牛は高能力化とストレスによって、亜鉛やマンガン、コバルト、銅などの微量ミネラルの要求量が高くなっていると言われています。しかし、一般的な飼料分析ではこれらは測定されないため、多くの酪農家で給与飼料の含有量の把握は困難です。
主食である牧草には微量ミネラルは多い?少ない?
牧草に含まれるミネラルの量は、土壌条件や自然環境に大きく影響されます。特に日本の牧草に少ないと言われる微量ミネラルは、コバルト、銅、鉄、セレン、亜鉛が挙げられ、これらは日本の土壌に少ない、またはあっても使える形ではないミネラルです。銅、鉄などは肥料で土壌に供給したり、購入飼料を選ぶ際に気を付けたり、ビタミンやミネラルが添加された商品があるので進んで選ぶことで対策ができます。しかしこれらの対策一つ一つではウシのミネラルの必要量に達しない可能性が高いため、組合せて複合的に取り組むことが重要です。その中でも固形塩はウシに必要な塩とミネラルを補給でき、設置も比較的簡単で取り入れやすい資材です。ぜひ、ウシに固形塩をあげましょう!
