持続可能な農業を目指して…
農業が直面している問題
近年、農業は様々な問題に直面しています。中でも以下の3点は、特に栽培管理や施肥を見直す要因になると考えられます。
①環境汚染・環境問題
②地球温暖化に伴う気象の変化
③肥料代の高騰
今まで通りのやり方をしているだけで、思うように収量が得られなかったり、環境が汚染され悪化したり、コストが増したりと持続可能な農業からどんどん離れてしまいます。特に生産者の方々にとって最も実感しやすく、対策が打てる問題は3つ目の「肥料代の高騰」でしょう。例えば、施肥を見直し、ムダなものを削減、またより安価な資材に代替することですぐに対策することができます。しかし上記3つの問題は密接に関係しており、対策を間違えると負のスパイラルから抜け出せなくなる恐れがあります(図1)。

もし、施肥を見直すのであれば、注意が必要です。肥料代を低く抑えても効かなければムダになってしまいます。一方で単価が高くても必要なものを効率良く作物に与えれば、品質の安定や増収に繋がりトータルのコストが低く済む可能性があります。
効率の良い栽培管理を目指して…
それではどのような状況で、どのような資材が有効なのでしょうか?様々なシチュエーションに合わせ、より効率のよい施肥を考えてみます。
①長雨や豪雨で肥料が流亡してしまう…
現在の日本には梅雨があり、一定期間の長雨のリスクがあります。そして気候変動の影響により、2100年末の日本では大雨や短期間の強い雨の発生頻度、雨の強さは増加し、その一方で雨の降る日数は減少すると言われています。どちらにせよ、肥効が比較的早く、水に溶けやすい成分を多く含む化成肥料の使用は流亡のリスクが増加します。もしも植え付け後に豪雨にあった場合、肥料が流亡し、追肥を行わなければならなくなる可能性があります。緩効性肥料は一見割高に見えますが、梅雨を挟む栽培や栽培期間が長く、豪雨にあたるリスクが増える作物には追肥のコスト・手間を削減できる可能性が高く、地下水への汚染も少なくムダの少ない肥料と言えます(図2)。

②根から養分が吸収できない状況では…
様々な要因によってしばしば作物は根からの養分吸収が行いづらくなる場合があります。例えば、雨が降らず土壌に水分がない場合です。根は水とともに水に溶けた養分を吸収するため、そもそも土壌に水が少ないと水を吸えず養分吸収量は低下します。また逆に長雨により圃場にたくさん水が溜まった場合も要注意です。根が長い時間水に浸されることにより弱り、根痛みを起こし、結果的に養分吸収量は低下します。これらの場合、いくら土壌に養分があっても吸収することが難しいため、手間であっても葉面散布(液肥)を行った方が効率良く生育停滞・不良の回復に繋がります(図3)。

③残渣をすき込む際は…
前作の残渣は微生物に分解され、土に戻り、その後の作付けでの養分として役に立ちます。また、残渣の分解時には微生物の働きにより土壌物理性を向上するなどの効果も期待できます。しかしながら、残渣の処理をしっかりと行えないまま次の作付けをしてしまうと、作物にとって病気の原因となる菌の繁殖に繋がったり、本来作物の生育に必要な窒素分を残渣の分解に使ってしまう窒素飢餓の状態に陥る可能性があります。よって、残渣のすき込み・分解はできる限り速やかに行うことで次の作付けが上手くいきます。残渣すき込み時の窒素肥料やバチルス菌資材の施用はただ単に余計なコストに見えますが、残渣の分解を促進するため次の作付けに対し非常に有効な手段となります。特に水田の場合、未分解の残渣がワキの発生原因となり、作物の生育だけではなく温室効果ガスの発生源にもなってしまいます(図4)。

④相乗・拮抗作用を理解して…
作物の養分吸収には養分同士での相乗・拮抗作用があると言われています。この関係を理解することで、本当に足りない養分は何か、また溜まっている養分をより効率的に使う方法がわかります。例えばりん酸と苦土には相乗作用があります。一般的に気温が低い寒い時に作物はりん酸を吸収しづらく、特に秋以降に播種・植付する作物は初期生育をスムーズに行うためりん酸を多く施用する傾向があります。また、りん酸は作物に吸われづらい一方で他の養分と比較し流亡しづらく、圃場に蓄積していることも多い養分です。もしもあなたの圃場にりん酸が十分に蓄積している場合、ぜひりん酸を減肥し苦土を施用してみてください。苦土は施用するりん酸を効率よく作物に吸収させ、その上土壌に蓄積しているりん酸の利用も助けてくれます(図5)。

減肥をするのなら、土壌分析をしてみましょう!
土壌分析を行うとその土壌の特性がわかります。地力があるのか、保肥力はあるか、どのくらいの養分を蓄えているか、施肥した肥料が効きやすいか…過剰な養分、不足している養分を見極め何をどの程度減肥してよいのかを考える材料となります。また、作物の養分吸収には相乗作用があり、先に述べたりん酸と苦土などが挙げられます。もしりん酸がたくさん蓄積している圃場があれば、りん酸を減肥し苦土を施用することでより土壌に溜まったりん酸を効率よく吸収させることができます。その一方で養分吸収には拮抗作用もあるため、土壌中の養分バランスを考えて施肥することが肥料を効率よく使うポイントとなります。
安価な資材でも、ムダがあれば結局高くつくかもしれません。その一方で、高価な資材でも、ムダなく効率的に使うことができれば安上がりになる可能性もあります。状況に合わせて使用する資材を選び、ムダを省くことで環境を守り、圃場の養分バランスを整えて安定的な作物生産に繋げることで、持続可能な農業が実現できるのではないでしょうか。