地球温暖化と未来の農業を考える③

日本農業から排出される温室効果ガスの発生源

前回のコラムでも取り上げましたが、日本農業では機械や施設を動かすための燃料の燃焼によるCO2を除くと、稲作と酪農から出るCH4と農耕地から出るN2Oが非常に多いことが特徴です。今回は、それぞれの温室効果ガスの発生メカニズムと対策について紹介していきます。

稲作から発生するメタン(CH4

稲作から発生するメタンは微生物が有機物を分解することで作られます。水を張ることのない畑では、微生物は酸素を使って有機物を二酸化炭素と水に分解します。一方で水を張り土壌に酸素が供給されにくい水田の場合、微生物は有機物を酢酸に変え、その酢酸をもとにメタン生成菌がメタンと二酸化炭素を作ります。また、メタン生成菌は空気の無い嫌気的条件下で増殖・活動しやすいため、水田に水を張る期間が長ければ長いほどメタンが発生しやすくなります。

稲作から発生するメタンへの対策

対策は大きく2つあります。まず一つ目に、水田から水を抜く中干しの期間を長くすることです。全国8県9地点の農業試験研究機関が2年間実証試験した結果、通常の中干を一週間延長することで、コメの収量への影響を抑えつつ約30%メタンの発生を減少させたというデータが得られました。また中干しの延長により、多くの試験実施圃場において、登熟歩合の向上、タンパクの低下が見られ品質が良くなったという報告もあります。 ※1  二つ目の対策は、メタンの発生源となる有機物を減らすことです。すなわち、前作の残渣や前年の稲株を早く分解するのです。しかし、以下のような理由で水田には分解されていない有機物が蓄積する傾向にあります。①水田として使用される圃場はもともと水はけが悪く水を張っていない期間でも乾きにくい。②水稲は春先の気温が上昇し始める時期から気温が下がり始める秋まで作付けされる。有機物の分解は好気性の微生物により行われるため、空気が入らない・気温が低い状況では進みづらくなります。よって、より微生物が働きやすい環境を作ってあげたり(排水対策やpHの矯正など)、分解が得意な微生物を投入するなどの対策が必要となります。

※1:独立行政法人 農業環境技術研究所より

バチルス菌を使った残渣分解事例

バチルス菌には枯草菌や納豆菌が含まれ、セルロースの様に硬い有機物を分解することが得意な微生物です。微生物資材によく含まれる枯草菌は、増殖力が高く、土壌中では残渣の分解や病気の原因となるカビや細菌の増殖を抑制します。土壌に稲わらなどの残渣をすき込む際に、この枯草菌入りの資材を投入することで、より有機物の分解を進めることができます。※当社ではこの方法と資材をお勧めしています。

※2:気象庁HPより(過去10年平均値)

酪農から発生するメタン(CH4

ウシ、ヒツジ、ヤギなどの反芻動物は、四つの胃に住む約8,000種もの微生物によってエサを発酵・分解し、栄養を吸収します。その過程で発生するメタンは正面玄関からはげっぷとして、裏口からはおならとして大気中に放出されます。特に体が大きく食べる量多い牛は1日200~600リットルもメタンを出しています。 ※3  このウシから発生するメタンは、全世界のメタン生成の20%近くを占め、二酸化炭素換算にするとウシ1頭が自家用車1台分の温暖化ガスエミッターであることがわかります。また、全世界にはウシが約16億頭飼われており、温暖化に与える影響は非常に大きいのです。
反芻動物は四つの胃と多くの微生物の力で、人間には消化することのできない硬い繊維質の草を一つ目の第一胃(ルーメン)で栄養として吸収できる形に分解します。その際に発生する水素と二酸化炭素からメタンが発生します。

※3:農研機構より

酪農から発生するメタンへの対策

ウシにげっぷをさせない!ということにはなりませんが、げっぷを減らすために様々な研究が進められています。例えば、げっぷの発生が少ないウシの品種改良やメタンの発生が少ないエサの開発です。また第一胃で作られるエネルギー源である低級脂肪酸の中でプロピオン酸に着目した研究も進んでいます。これは胃の中でプロピオン酸の割合が高いとメタンの生成が抑制されるためです。近年では、ウシの胃の中でプロピオン酸の前駆体を生成する菌種を特定しており、この菌を用いた生菌剤(サプリメント)やこの菌を増やすための飼料の開発が進められています。

農耕地から発生する一酸化二窒素(N2O)

農耕地から発生する一酸化二窒素は主に肥料や堆肥など窒素分に由来します。窒素は様々な形で土壌に供給されます。有機態窒素、尿素態窒素、アンモニア態窒素(NH4 +)、硝酸態窒素(NO3 -)、これらの窒素は有機態窒素から硝酸態窒素まで微生物の力によって分解され、アンモニア態窒素や硝酸態窒素の形で作物によく吸収されます。ここで作物が最も吸収しやすい硝酸態窒素になるためには、「硝化反応」を経る必要があり、この副産物として一酸化二窒素は発生します。次に雨が降って土壌に酸素が少なくなると、土壌中の硝酸態窒素は「脱窒反応」され窒素ガスとして放出されます。その中間生成物としても一酸化二窒素は生成されるのです。 よって、作物が吸収しきれないほど多くの窒素分を過剰に土壌に施用したり、圃場の水はけが悪い場合に一酸化二窒素は発生しやすくなります。

農耕地から発生する一酸化二窒素への対策

まず過剰な施肥をやめることが第一歩となります。施肥基準をしっかり守ること、土壌分析を行い適正な施肥量を把握することも良いでしょう。また多くの作物の養分吸収量は、生育初期よりも作物が大きくなり、実や根を太らせる生育後半で多くなる傾向にあります。作物が必要な時に吸収できる養分を供給することが最も効率よく、かつ環境にも良い施肥方法となります。追肥をしたり、肥効調節型の肥料を基肥に使用することで対応ができます。

農業(水稲、畑作、酪農)を営んでいく過程で多くの温室効果ガスが排出されます。水田に有機物をすき込むこと、ウシがげっぷすること、肥料や堆肥を畑へ供給すること、どれも欠かすことのない・やめることのできないことばかりです。この他にもトラクターを動かしたり、冬に暖房を入れたりと燃料由来の二酸化炭素(CO2)も排出されます。農業は、自然界において水や窒素、炭素などの循環を利用して生産を行っていますが、今後も持続的に農業を営むためには環境へ配慮し、過剰な温実効果ガスの発生を抑えることが非常に大切です。そしてそれは巡り巡って、地球や私たちの生活、また農業生産の安定にも繋がると考えます。

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