作物の夏バテ対策にできること
作物の夏バテとは?
一般的に「夏バテ」というと、夏の高温時に体がだるい・食欲がない・疲れやすいなどの暑さによる体調不良の総称です。そして作物も夏バテをします。その原因は高温や直射日光・熱帯夜・暑さなどによるものです。主に光合成能力が低下したり、光合成により作られた炭水化物(エネルギー)を溜めることができずに、生育が妨げられることが当てはまります。
光合成と環境要因
植物は光合成をすることで炭水化物を生成し、体を大きくする材料や各種代謝を進めるためのエネルギーとして使用しています。光合成は水と二酸化炭素、光のエネルギーにより進められます。そして環境によって光合成のしやすさが違ってきます。例えば光があり温度が高く暖かいと光合成がしやすくなります。しかし、光が十分にあっても温度が高すぎる(30℃を超える)と光合成速度は低下します。この光合成速度がピークになる温度は、一般的に寒冷地に生息する植物では30℃より低く、熱帯に生息する植物では高くなります。また光の強さによっても光合成速度は変化します。光のエネルギーにより光合成が進むため、弱い光では温度に関係なく光合成速度は低くなり、強い光では温度によって光合成速度が変わります。

以上の様に環境により光合成速度は変わりますが、同時に植物は呼吸をするため光合成で生産した炭水化物を呼吸のエネルギー源として消費しています。よって光合成から呼吸を差し引いたものが、純粋に植物のプラスになる光合成と言えます。呼吸は気温が上がれば上がるほど増加傾向にあるため、光合成速度のピークを超える温度になると、増えた呼吸により光合成で生産される炭水化物が減少します。この状態が植物の夏バテです。

夏バテしやすい環境は…
作物の夏バテも基本的には人間と同じ「暑い時」に発生します。温度が高すぎることで光合成速度自体が減少し、呼吸速度が増加するためです(図A)。また高温にプラスして曇天により光合成に使用できる光量が減るとより悪化します(図B)。そして、光合成をせず呼吸しかしない夜間の温度が下がらない場合は最もロスに繋がってしまいます(図C)。

夏バテの対策にできることは?
作物が夏バテをして困ることは、体を大きくしたり、実や根に糖分やデンプンを溜めるための炭水化物を呼吸により必要以上に消耗してしまうことです。ではどのように対策を行えばよいでしょうか?今回は3つご提案します。
①光合成量を増やす
②呼吸量を減らす
③光合成産物を直接補給する
それぞれについて詳しく説明していきましょう。
①光合成量を増やす
暑いほど呼吸が増えてしまいますが、温度以外の要因により光合成をより活発にすれば、夏バテ症状が和らぎます。施設などの場合は温度の管理や光が足りなければ補光、強すぎれば遮光、より光合成をしやすくするために材料である水をこまめに灌水したり、二酸化炭素発生装置を使いCO2濃度を上げることでより光合成がしやすい環境を作ることができます。しかし露地の場合は作物自体にアプローチをすることになります。例えば、光合成をするためのクロロフィルを増やしたり・維持をしたり、受光態勢を向上させて太陽光を効率よく使うなどの方法が考えられます。
クロロフィルを増やす・維持するにはその原料となる、窒素・苦土・微量要素を施用すると良いでしょう。特に苦土や微量要素は葉面に定期的に散布すると効果的です。苦土だけでいえば、ジワジワとゆっくり溶けるキーゼライトを基肥や追肥で施用することもお勧めです。また、ペンタキープなどのアミノレブリン酸が含まれる液肥も良いでしょう。

次に受光態勢を向上させる方法は、窒素過多にせず過繁茂にしない、ケイ酸の施用で葉を立たせるなどの方法があります。また、上記の様にクロロフィルの多い、緑色の濃い葉を作ると自然と葉がコンパクトになり垂れづらくなる傾向があります。



②呼吸量を減らす
呼吸をさせない!というのは無理ですが、無駄な呼吸を削減することは可能です。まずは過繁茂にし過ぎないことです。葉がたくさんあるとその分たくさん光合成ができますが、ホウレンソウやコマツナなどの葉自体を食べる作物以外は葉の呼吸量が増え、結果的にイモや実などが太りづらくなる可能性があります。また、過繁茂になると作物同士が重なり合い光の利用効率も低下します。トマトの果菜類の場合、必要のなくなった葉をとってしまうことも効果的です。なぜならトマトの実は下から順にでき、収穫した後、下の葉が青く元気だとしても上の方の実に養分を転流することができないからです。また古い葉を残しておくと病気に罹るリスクも増えてしまいます。

③光合成産物を直接補給する
光合成によって作られた炭水化物は、作物の体の中で窒素とくっつきアミノ酸やタンパク質になったり、炭水化物同士がくっつき繊維質になったり、糖やデンプンの形で貯蔵されます。また、作物自身が生きていくためのエネルギー源としても使用されます。ここで直接作物の根や葉面から補給できるものは、アミノ酸や有機酸(酢酸や有機酸など)です。これらは光合成という大きなステップを飛ばすことができるため、夏バテ予防だけではなく、作物の生育が悪い・停滞している場合にも有効です。
